2026年8月、中国・北京の国家スピードスケート競技場(国家速滑馆、通称アイスリボン)にて第二回 世界ヒューマノイド運動会 (World Humanoid Robot Games 2026) が開かれ、中国を中心に世界各国から600を超えるチームが参加しました。競技種目は第一回から大幅に増え、陸上競技以外にも、サッカーやテニスなどの球技や、ボクシング、演舞、家事や部品のピッキングなどの実用性を競うようなロボット競技まで、競技が行われました。GMOロボッツは陸上競技の1500m, 小型400m, 小型100m の3種目に出場し、日本企業唯一のチームとして戦いました。今回は、その挑戦の裏側を皆様にお見せしたいと思います!
参加のきっかけ
ことの始まりは2026年1月1日、GMOインターネットグループ陸上部がニューイヤー駅伝を制しました。2016年4月の創部から10年、7回目の挑戦でつかんだ初優勝です。3つの区間新記録と大会新記録を伴う、圧倒的な勝利でした。
この優勝を見て、ヒューマノイドも陸上競技の大会に出てみないか、という提案が新卒パートナーを中心に社内で持ち上がりました。
GMOインターネットグループ陸上部の走りは、ヒューマノイドにも活かせるのではないか。この仮説から、完全自律走行によって人間の走行動作を再現する取り組みが始まり、その取り組みは「GMOインターネットグループ陸上部-GMOロボッツ」と名付けられました。

目標は大きく、世界ヒューマノイド運動会での優勝と掲げられ、我々の世界に向けた挑戦が始まりました。
GMO AIRは、こうした挑戦を後押しする仲間を募集しています。新しい挑戦に興味のある方はぜひ採用ページまで!
出場に向けた開発
出場すると決めたものの、GMO AIRには自社開発の機体はなく、本番までの時間も限られています。機体は、GMO AIRが日本代理店をつとめるUnitree Roboticsのものを使うことにしました。選んだ機体は、「Unitree G1」です。やや小型で様々な用途に向く汎用のヒューマノイドで、GMOインターネットグループでは「ひとみん」の愛称で呼ばれています。これまでも、工場での軽作業に挑戦したり、展示会やイベントで来場者を迎えてくれたり、様々な場所で活躍してきました。

しかし汎用の機体ですから、長距離を速く走るための機能や自律走行の機能は最初から備わっていません。それらの機能を実装し、G1の性能を最大まで引き出すことが私たちのやるべきことでした。
もっと速く走らせる
G1は標準の状態でも走ること自体はできます。しかし速度は最大でも秒速3.0mほどで、あまり速くはありません。さらに走らせ続けてモーターの温度が上がってくると速度が落ちるようでした。そこでGMO AIRは、陸上選手の走行フォームと独自の報酬設計を掛け合わせ、標準より速く、速度や安定性を落とさず持続的に走れるように独自の走行プログラムを組み上げました。
開発の初期、まずはデータからということで陸上部の選手の動きをモーションキャプチャーして、走行フォームのデータを収集しました。
このデータをもとに、強化学習を用いてシミュレーション上で試行を繰り返して走りを学習させます。
開発開始間もない4月の段階の走行は、まだ走行の安定性に課題がありました。
改善を繰り返し、ある程度の安定性を獲得しました。
5月頃には秒速5.5mほどの速度が出るようになっていました。ただし、この頃はまだ旋回コマンドの効きが悪かったり、転倒しやすかったりするモデルでした。この時期からは競技に向けて、速度以外の性能の調整にも力を入れていくことになります。
モーターの熱問題
最後まで私たちを悩ませたのが、熱です。速く走らせるほどモーター回路が発熱し、回路の焼損を防ぐ仕組みにより停止します。5月の時点でも速度は出ていますが、その頃は50mほど走ると転倒しており、原因は高温による緊急停止でした。緊急停止までいかずとも、トルク特性の変化などにより挙動が変化し姿勢が不安定になるなどの影響が出ていました。その時期からは速度を落とさないようにしながら熱を抑える走り方になるようにモデルを調整していきました。また、特に発熱する箇所に放熱板を取り付けたりしてハード面でも出来る限りの対策をするなどしました。

7月1日、大井埠頭陸上競技場で初めて自律走行によるトラック1周(400m)を完走できました。。なぜ、この時に完走できたかというと、熱対策が効いたのもありますが、おそらく気温がやや低い時間帯であったことが考えられます。その後は東京では35度を超えるような日が続き、日中の走行で完走できないケースが出てきました。屋外での各部のモーターのベースの温度が、屋内で稼働している時と比較して10度くらい違っており、無視できない影響が出ているようでした。本番は空調の効いた屋内競技場なので外気温の影響の心配はいらないのですが、練習中の過酷な暑さは私たちの頭を悩ませました。人間の方も気を抜くと熱中症なので相当辛いのですが、ヒューマノイドも辛いようですね。
そこから調整を重ね、7月28日から31日の白井市運動公園での4日間の開発合宿では、秒速3m以上でトラックを1周し、自律走行かつ熱抑制システムありで400mを2分20秒で完走、800mの連続走行、秒速4.4mでの100m完走まで漕ぎ着けました。
自律走行の機能開発
標準のG1は、3D LiDARが搭載されており、公式のアプリケーションからマップの作成及びマップ内の自律移動を実行することができます。しかし当然といいますか、陸上トラックを自律走行で走る機能はありません。そこで、自動運転の知見があるGMO Various Roboticsのメンバーを開発メンバーに加え、自動運転の車線検知技術を応用した陸上競技トラック上でのレーン内の自律走行システムを実装しました。
さて、今大会の上位のチームの見てみると、会場の3Dデータに基づく走行方式をとっているチームも多かったのではないかと思います。会場の形状を見るに、事前に何度か会場のデータを取得できれば競技場トラックのレーン内を走行するには十分な精度が出せそうです。しかし、会場は北京。3Dデータの活用は難しいと考え、Realsenseカメラの画像を用いた機械学習によるレーン認識を主軸にする方針をとりました。だいたい陸上競技場のトラックの見た目は現地会場も日本もさして変わらないはずなので、日本で学習したモデルが現地でも動くはずですね。まあ、実際そううまくは動かないので、現地で取得した画像での最終調整も視野に入れつつ、日本の複数の陸上競技場で走行データを大量に取得した上で、実際の会場を模したシミュレーション空間上の生成データも加え、出来るだけロバストなモデルを作って臨むことにしました。データは人間が走って集めました。開発メンバーにランニングが趣味な熱意のある人がいたことは非常に幸運なことだったと思います。
他にも、車載カメラよりもブレが大きいため強い画像のブレの補正技術を導入する必要があったこと、車と違ってピュアに取得したオドメトリの精度が全く実用的でなかったことなど、車の自動運転ではまず無いような数々の問題を経験しましたが、詳しい話は別の機会にしたいと思います。
大会準備期間中の現地での様子
現地での最終調整のため、大会初日の1週間前の8月16日に日本を出発し現地入りしました。

現地に無事届けられた機体。輸送にかかる手続きにも相当いろいろありました、、、
現地についてからはホテルのレンタルスペースや会場のメンテナンススペースで日夜作業し、各チームに割り当てられた短い練習時間で最終調整をする日々が続きます。

会場でUnitree Robotics社からお借りした機体を確認している様子。現地でのご協力、大変感謝いたします。

現地で得られたデータを解析し、最後の調整について議論する様子
競技の数も出場チームも多いので、本番のトラックが使えるタイミングが本当に限られていました。現地調整の1日目である8月17日は、1500m競技の練習枠だったため時間が比較的長く、40分の練習枠でロボットの動きの調整と自律走行用のデータ収集に充てることができました。2日目の8月18日の練習では自己ベストを更新し、自律走行で400mを1分50秒で完走します。

本番のトラックでノートPCをつなぎ、その場で調整します。

同じ練習枠には、各国のチームが機体を持って集まります。他チームのロボットが異常なスピードで横を走っていくのを眺めながら、自分たちのロボットを準備して走らせます。
8月20日と21日は会場が使えず、走行を試す機会がありませんでした。本番までにはまだ会場が使えるタイミングがあるので、ホテルでこれまでのデータの解析や、修理パーツの準備などをして過ごします。21日の夜は、19時から22時30分まで開会式のリハーサルに参加しました。そして8月22日、ロゴを付けた機体と横断幕を掲げて開会式に臨みます。106チームが機体を持って入場しました。会期中は、CGTNをはじめとする中国のテレビ局が競技を生配信しています。
ついに開会式です!優勝目指して、本番ギリギリまで最善を尽くします!

大会当日
出場は400m走・1500m走・100m走の3種目、いずれも自律走行での出場です。
400m走(小型組)は、予選44台が登録、準決勝はタイムで上位10台、決勝は5台と、3回のレースを勝ち上がって最終順位が決まります。
予選は1分55秒93で完走し、10位で予選を通過することができました!続く準決勝では走行中に転倒し、記録なしという悔しい結果になりました。最終結果は44台中9位タイです。
https://x.com/GMO_AIR/status/2091440379015090395

1500m走は100mや400mのように大型と小型で分かれていません。ただ、出場機体ルールとして120cmとなっており、実質的には大型・中型専用競技といえます。試合形式も1レースに時間のかかる運営上の都合なのか予選のない一発決勝で、35台、7組のレースのタイムで順位が決定されます。本番でひとみんは大型機体が長い足で駆け抜ける中、着実に走行して完走、結果は35体中7位、タイムは7分43秒89でした。1500m走では、そもそも完走する機体が少ない中で小型機で完走し、走行に特化した大型の機体を除けば1位のタイムを記録できたことは私たちとしても嬉しい結果と受け止めています。

完走が難しい1500mを、多くの人が見守る中で走り切りました。
100m走(小型組)には、8月25日に予選へ出走しました。結果は24.3秒で完走し、74台中13位で惜しくも予選敗退となってしまいました。練習中のベストタイムは22秒台だったので少し悔しい結果でしたが、著しい減速や転倒なく走り切れて安心しています。

出場した3種目すべてで1度は完走しました。
https://x.com/GMO_AIR/status/2091759541331607670

目標に掲げた優勝には及びませんでしたが、3種目すべてで初出場としてはなかなかの順位だったのではないでしょうか。
種目 | 記録 | 順位 |
|---|---|---|
400m走(小型組) | 予選 1分55秒93(準決勝は転倒により記録なし) | 44体中 9位タイ |
1500m走(混合) | 7分43秒89 | 35体中 7位 |
100m走(小型組) | 24秒3 | 74台中 13位(予選敗退) |
大会を振り返って
大会を終えて振り返ると、他のチームは転倒などによる記録なしも多い中で、なんとか完走する姿は、観客の皆さんに多くの応援をいただいたように思います。同時に、他国のチームから当社の存在を認知していただく機会にもなっ他のかと思います。大会後には、上位チームのhonorの方から「君たちGMOだね」と気さくに声をかけていただき、開発チーム同士で貴重な交流の機会を得ることができました。

日本でもいろいろな反響があったことを知りました。応援してくださった皆様、取り上げてくださったメディアの皆様に、あらためて御礼申し上げます。
最後に
優勝には届きませんでしたが、世界のヒューマノイド開発の最先端を肌で感じる場に参加できたことは大きな経験となりました。また、今回の挑戦では、トラックのレーン内を速く走るために様々な技術を駆使しましたが、その中で得られた知見は今後の社会実装の場でも活きてくるものと考えています。例えば、自律走行は実際のタスクでも求められる場面があり、熱の問題に関する知見や画像認識技術なども活きてくる場面が出てくると思います。
GMO AIRは、これからもヒューマノイドの社会実装に向けた挑戦を続けて参ります。今後ともよろしくお願いいたします。

GMO AIRは、ヒューマノイドの社会実装に挑むエンジニアを募集しています。世界への挑戦に本気で取り組める環境があります。詳しくは採用ページをご覧ください。